人類世

数学の一分野の「カテゴリー論」は、かつては、数学者からも「意味のない抽象化の一般化(General Abstract Nonsense)」と揶揄されたこともあったのだが、いま、その様相は大きく変わりつつある。その変化を先導しているのが、「応用カテゴリー論」という分野を作り上げた数学者のジョン・バエズだ。
口の悪い人の中には、「カテゴリー論の応用だって? 一番応用から遠い「意味のない抽象化の一般化」といわれるカテゴリー論の「応用」なんて、形容矛盾だろう」という人も、まだいるのだが。多分、それは誤解だ。
バエズは、60-70年代のフォークソングの女王だったジョーン・バエズのいとこだ。(おじいちゃんおばあちゃんが一緒)一般には、ジョーン・バエズほどは有名ではないかもしれないが、僕は、彼を、現代最高の物理学者・数学者の一人だと考えている。
彼の講演「21世紀の数学」が面白い。https://goo.gl/Q3NbRk
 ビデオは、https://goo.gl/3zFAfk
 講演スライドは、https://goo.gl/R81GB2 からみれる。
「21世紀の数学」というタイトルだが、講演の前半には、ほとんど数学の話は出てこない。
彼が大きな関心を寄せているのは、この地球が、大きな変動の時期にさしかかっていることだ。「地質時代区分」でいうと、現代は、Holocene(「完新世」かつては「沖積世(Alluvium)」とも言っていた)から、次のエポックに移っているという。
彼によれば、「地球温暖化」などは、そうした大きな変化の中の一つの現象に過ぎないと言う。
この新しい時代を、Anthropocene という。英語で言うとHuman Epoch だ。日本語wikiには記述がないが、中国語wikiは「人類世」と訳している。(これから、中国での翻訳を日本が輸入することは増えるのかもしれない)
「人類世」! 
我々人類にとっては、素晴らしい時代のようにも響くのだが、どうもそうではないようだ。イメージとしては、「風の谷のナウシカ」の時代を考えたほうがいいのかもしれない。
図は、彼の講演スライドから。
最初は、「開発」が進むアマゾン流域。確かに、人類の人口(だけ)は、爆発的に増大を続けている。だけれども、地球上の脊椎動物の数も、無脊椎動物の数も、大きく減少している。大洋中の魚の数は、この40年で90%減ったという。種の絶滅は、従来の100倍から1000倍以上のスピードで進んでいる。現代は、種の大量絶滅の時代なのだ。
大量絶滅は、「地質時代区分」の変わり目では、よく起こることだ。三葉虫にトドメを刺したベルム紀末の大量絶滅は、全地球規模での火山活動の活発化が原因らしい。恐竜を滅ぼした白亜紀末の大量絶滅は、小惑星の衝突が原因だとされる。
「地質時代区分」は客観的なものである。何億年か後、我々の子孫とは限らないのだが、地球上の知的な生命が文明を築くのなら、その地質学者は、現代に、やはり「人類世」に似た名前をつけるのは確かだと思う。現在進行中の生物の大量絶滅の原因は、人間にあるからである。
あれ。「21世紀の数学」「応用カテゴリー論」の話ができなかった。それは、別ポストで。









コメント

このブログの人気の投稿

マルレク・ネット「エントロピーと情報理論」公開しました。

初めにことばありき

人間は、善と悪との重ね合わせというモデルの失敗について