「紙と鉛筆」が必要なわけ
先に、ビジネス視点で量子コンピュータを考えるアプローチと、量子情報理論から量子コンピュータを考えるアプローチは、「通底」していると書いた。
ただ、ここには、いくつかの問題がある。
第一に、各人が、各人のビジネスの視点から、この分野への参入を考えてみよう。必要とされる資本の規模でも人材確保の面でも、ビジネス的な障壁は、AIやIoT分野よりはるかに高い。
先のGoogleの"Commercialize論文" https://goo.gl/4qee3o が、未来を "Super Star Effect"で説明しているように、この市場が、ITの世界の巨人たちの競争の場となり、Superじゃない人たちは弾き飛ばされ、彼ら巨人 Super Starたちの力が一層卓越する機会となる可能性は、高いのかもしれない。
第二に、個人のスキルのレベルで、この分野への参入を考えてみよう。ここでも、障壁は低くはない。
先のGoogleの"Quantum Supremacy論文” https://arxiv.org/pdf/1608.00263.pdf は、簡単に要約すると、量子コンピュータの開発に、小規模な(50 qubit程度の)量子コンピュータが利用できることを理論的に明らかにしたものだ。
ただ、この論文を読むのは、簡単ではない。それは、もう一つの障壁である。
それは、従来の、量子ゲートの組み合わせで、いくつかの量子アルゴリズムを記述するのとは異なる難しさがある。それは、現代の量子情報理論の言葉で書かれている。
重要なことは、この論文は、Googleにとっては、ビジネス的にも重要な意味を持っていることである。(それは、僕がいう、ビジネスと理論の二つのアプローチが、客観的には「通底」していることの、いい例だと思う。)
Shorのアルゴリズムによる量子コンピュータによる「暗号解読」を「キラーアプリ」とする量子コンピュータ像は、到達すべき目標が、現在の技術水準からするとあまりに高く、いつになったら投資を回収できるのかわからないものだった。
それに対して、この論文が示すような、小規模の量子コンピュータで、bootstrap式に次の規模の量子コンピュータを開発するという方式なら、開発のそれぞれのステップで、規模に応じた応用分野を拡大しながら、リターンを確保するというビジネス・モデルが可能となる。
資本レベルの障壁と、技術レベル(正確には、技術を「理解」できるかというレベルなのだが)の障壁では、僕は、明らかに、後者の方が低いと思っている。
知識やビジネスの枠組み自体が変化する時代の変わり目には、ビジネスになりそうもないからと知ることをやめることも、理解できそうもないとビジネスを諦めるのも、どちらも、いいこととは思えない。
少なくとも、量子ゲートの働きや、いくつかの基本的な量子アルゴリズムを「理解」することは、難しいことではない。それは、「紙と鉛筆」で可能である。いつかきっと、その知識は、生きると思う。
それに、たとえお金がなくても、「紙と鉛筆」からでも始められる、何かを「知る」ことは、楽しいことだと思うのだが。
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