“From Qubits to Spacetime"

スモーリンやバエズは、とびきり優秀な、でも、一風変わったところのある物理学者だ。スモーリンはライプニッツを語り、バエズはグロタンディックを語る。ペンローズもそうしたタイプの学者なのだが、そんな物理学者はあまりいるわけではない。僕は、彼ら、多分、ループ量子重力理論とくくっていいと思うが、のファンだった。(心情的には、今でもそうだ)
今回の連休は、去年の夏、プリンストン大学で二週間にわたって行われた「理論物理学の展望 -- Qubitから時空へ -- 」というセミナーのビデオをずっとみていた。こちらは、ウィッテン、マルデセナ、サスキンドといった、物理学の「主流派」の集まりにも見える。https://www.ias.edu/ideas/pitp-qubits-spacetime
僕は、いい歳になってから物理の再勉強を始めたのだが、それはサスキンドのスタンフォードのビデオ講義を通じてだった。それしか方法がなかったのだが、正直にいうと、それ以来、サスキンドの語ることにあまり違和感を感じなくなった。ヘタレである。サスキンドは、スーパー・ストリングのボスの一人だ。
ただ、それは、通信教育で物理を学んだと言っていい僕に「定見」がないせいだけはないのだと思う。
確かに、20世紀後半の物理学は、多数派のスーパーストリング派と少数派のループ量子重力派に分裂していた。そのあたりは、スモーリンの本が多くのことを語っている。
ただ、21世紀の物理学の出発点になったのは、マルデセナによる、1997年のAdS/CFT対応の発見だった。それは分裂した二つの陣営にとっても大きな事件だった。そこから全てが変わったように見える。
AdS/CFT対応というのは、簡単にいうと、d次元の「かたまり」の中の重力理論と、d-1次元のそのかたまりの「境界」の中の量子論とが対応するという発見だった。100年来の、重力理論と量子論との統一という課題の大きな手がかりを、物理学は得たのだ。
二つの理論の住む世界は、1次元だけ次元が違うのだ! このことは、二つの理論の「統一」が難しかったことの背景を示している。エネルギーを上げていけば、二つの理論の「大統一」ができると信じていたのは、ナイーブだったのだ。
このセミナーの基調になっているのは、次のような認識である。
● セミナーのタイトルになっている、「From Qubits To Spacetime」。 物理の理論は、情報の理論と深いつながりがあること。
● 相対論と量子論の統一の「思考実験」の場は、ニュートンのリンゴ、アインシュタインのエレベーターに変わって、「ブラックホール」であること。
● 数学的には、「計算複雑性」の理論が、重要であること。
気がつけば、デモクリトスを語り、DWave批判で暴れていた、僕の好きな計算複雑性のスコット・アーロンソンも、しっかりこの流れに入っている。
「AMPSパラドックス」のAlmeiri、それを「解決」したHarlow-HydenのHarlowも登壇していた。初めて顔を見た。(Harlowの三本目のビデオが壊れていて見れなかったのが残念。)アーロンソンより、もっと若い世代が、どんどん活躍している。それは、当然のことだろうが、羨ましくも思う。
物理の世界と、情報と計算の世界が、どんどん近づいているのに、僕はワクワクしているのだが、これをみんなに(主要にはITの世界にいる人になるのだが)どう伝えていけばいいのか、少し悩む。
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