「博士の異常な愛情 ... 」
スモーリンは量子重力理論の第一人者だ。彼が、50年代のボームの理論(Bohmian Physics)を手がかりにして量子論の再構築をしようとしているのは、アインシュタインの重力理論と量子論の統一という、物理学の100年来の課題に挑戦しようとしているからだ。
彼の「素朴実在論」("naive realism" の"naive"を「素朴」と訳していいものかは、すこし微妙なところもあるのだが)の立場や、ライプニッツの「充足理由律」への注目は、自然あるいは世界に対する、ある意味「哲学的」関わり方が、自然科学研究をドライブする大きな力になることを示していて興味ふかいものだ。
今日、紹介しようと思ったジョン・バエズのアプローチも面白い。彼が、先々月、一般向けの科学雑誌「ノーチラス」に寄稿した記事「数学がニュートンを量子の世界に連れて行く」 http://bit.ly/2w0HaiA は、グロタンディックの数学を使って、アインシュタインを飛び越えて、ニュートンと量子論を結びつけようというアイデアを述べている。
もう少し、彼の構想を説明しなければならないのだが、あるニュースを聞いて、それは次回にしようと思った。
バエズの記事のサブタイトルを見て欲しい。
「ある数学教授は、如何にして心配するのを止めて代数幾何を愛するようになったか」"How a math professor learned to stop worrying and love algebraic geometry."
これは、キューブリックの次の映画の長い題名をもじったもの。
「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」"Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb"
あるニュースというのは、このキューブリックの「博士の異常な愛情 ... 」が、4Kで復刻されて、今週、上映されるというものだ。残念ながら、ロンドンでだが。http://cinefil.tokyo/_ct/17264853
予告編は、このページでも見れる。あらすじは、日本語wikiにも、まとめられている。http://bit.ly/2HjOuwf
スラップスティック風だが、テーマは、偶発的に起きた核戦争で人類が滅亡するというシリアスなものだ。
異常な博士のモデルは、現代のコンピュータの父 フォン・ノイマンだと言われている。チューリングは、こんなことはなかったろう。(「異常者」として処断されたのだが。)
スモーリンが注目したボームは、広島・長崎に投下された原爆を作ったマンハッタン計画を主導した「原爆の父」オッペンハイマーの愛弟子だった。ボーム自身もマンハッタン計画に一時参加していたらしい。オッペンハイマーも、戦後のマッカーシズムで、公職追放されている。
この時代の雰囲気を知るには、キューブうリックのこの映画は、とてもいいものだと思う。
もちろん、原爆の原理を発見したのは、アインシュタインである。
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