これから量子情報理論を学ぶ人に

これから量子情報理論を学ぼうとする人に勧めたいテキスト・ビデオ講義をまとめて見た。

サスキンドの量子論入門テキスト。Kindle版は、852円で安い。

--------------------------
 QUANTUM MECHANICS The Theoretical Minimum 
 LEONARD SUSSKIND and ART FRIEDMAN
 https://goo.gl/AQHdHw
 --------------------------

Susskindのビデオ講座は、ここからたどれる。https://goo.gl/ZUScUw
ここの20番以降の
20-28: Quantum Entanglements part 1
29-36: Quantum Entanglements part 2-3
を見るのがいい。Part Iは、先の本と重なっている。

僕は、「サスキンドから物理習いました」といえるくらい、このビデオ講義には、お世話になった。

 --------------------------
 Quantum Mechanics and Quantum Computation
 Umesh Vazirani 
 BerkeleyX on edX | CS-191 Aug. 2013 
 https://goo.gl/5aCUHu  
 --------------------------

edXでの公開が終了しているが、Youtubeには残っている。
僕の「紙と鉛筆で学ぶ量子情報理論基礎演習」は、彼の講義のスタイルに影響を受けたものだ。

このビデオ講義の元になったバークレーでの2012年のレクチャー・ノートは、次のページからダウンロードできる。http://www-inst.eecs.berkeley.edu/~cs191/sp12/  2016年の講義のドラフトは、https://people.eecs.berkeley.edu/~vazirani/f16quantum.html にある。

でも、先にビデオ講義を見るのがいい。


 --------------------------
 Quantum Computing since Democritus
 Scott Aaronson
 https://goo.gl/7FSxUC
 --------------------------

Scott Aaronsonは、この分野の第一人者。タイトルからしてちょっと変わっているのだが、話題は広く、深い。
ただ、楽しそうに話題が展開してゆくのだが、見かけより難しい本だと思う。

彼のblog "Shetetl-Optimized" https://www.scottaaronson.com/blog/ は、この分野の新しい動向をチェックするには、必見のものだ。

今度の「楽しい数学第三夜:論理学入門 -- 計算の複雑さをめぐって」で、この本の「ゲーデルの不完全性定理を二行で説明する」を紹介しようと思っている。僕が知る限り、SMULLYANのElementary Formal System を使った証明と並んで、エレガントなものだ。


次は、この分野の代表的な教科書。
 --------------------------
Quantum Computation and Quantum Information 
 10th Anniversary Edition 
 Michael A. Nielsen & Isaac L. Chuang
 https://goo.gl/djscp7
 --------------------------

少し古いのだ、大抵のことは載っている。しかも、最初は大部すぎてとっつきにくいかもしれないが、説明は丁寧で、叙述もよく考え抜かれている。また、「学説史」的な説明が、各章の最後に加えられていて、参考文献がきちんと紹介されていて、とても役に立つ。例えば、有名な「Shorの素因数分解アルゴリズム」が、どのような研究の流れから生まれたものかを、僕はこの本で初めて知った。

僕は、Kindle版を買ったのだが、Kindleでは、数式部分が「これは、イジメか」と叫びたくなるほど小さく表示される。僕が、Kindle版ではなく紙の本を買えばよかったと思った、多分、唯一の本だ。お金がある人は、すこし高いけど、紙の本を買ったほうがいいかもしれない。

こちらは、Nielsenのよりも新しい教科書。
 --------------------------
Introduction to Quantum Information Science 
 Vlatko Vedral
 --------------------------

新しい視点が提供されている。というか、古い教育を受けた物理学者には、量子力学の基礎の新しい定式化に対する無理解・無関心があることを嘆いているように見える。そこは、面白い。また、こうした視点は、Vaziraniの新しい教え方とも通ずるものがある。

残念ながら、数式部分に、ミス・タイプが多い。何度も、計算が追えずに頭を抱えた。ミスプリが多い本だと割り切ったら、急に、読みやすくなった。

最後に、この分野で開催された代表的なカンファレンスを二つ紹介しよう。

 --------------------------
 Quantum Computing for Business
 2017/12/04-06
 --------------------------

ビジネス・パーソンをターゲットにしていることもあり、現状のオーバービューを得るには、とてもいい。
このカンファレンスでのキーノートを論文にしたプレスキルの"Quantum Computing in the NISQ era and beyond"は、必読だと思う。丸山による翻訳はこちら。https://goo.gl/6qh1oE

 --------------------------
 IT FROM QUBIT SUMMER SCHOOL
 2016/7/18-29
 https://goo.gl/4mmRQv
 --------------------------

こちらは、研究者向けの勉強会。たくさんのチュートリアル・セッションを含み、この分野の最新の研究動向が、よくわかる。


コメント

このブログの人気の投稿

マルレク・ネット「エントロピーと情報理論」公開しました。

初めにことばありき

人間は、善と悪との重ね合わせというモデルの失敗について