複雑さについて(5) チャイティンとゲーデル

1974年のことだ。27歳のチャイティンは、ドキドキしていた。自分のアイデアをゲーデルに話してみようと思ったからだ。
訪問先のワトソン研の電話を借用して、彼は、ゲーデルに電話をかけた。なんと、ゲーデルが電話に出た!
「せ、先生、僕は、先生の不完全性定理に魅了されています。ぼ、僕は、ベリーの逆理に基づいた、不完全性定理の新しい証明を行いました。そのことでお話がしたいのですが」
「君が、何の逆理を使おうが、僕にはどうでもいいのだが。」
ゲーデルは、不完全性定理の証明に「嘘つきのパラドックス」を使っていた。
「は、はい。おっしゃる通りです。でも、僕の証明は、不完全性定理の情報理論的な観点からの解釈を与えるものだと思います。そのことで、ぜひとも、先生にお話ししたいのです。ぜひ、先生のお考えを伺いたいのです。」
「君の論文を僕に送りなさい。読んでみるから。数週間後に、もう一度電話して。予定が取れたら会えるかもしれない。」
短い電話だったが、チャイティンは、跳び上がるほどに喜んだ。証明のアイデアを得たのは、1970年だったが、まだ短い要約しか発表していなかった。しかし、幸運なことに、この1974年には、チャイティンはこのテーマでの最初の重要な論文を完成させたばかりだった。チャイティンは、すぐに論文を封筒に入れ、ゲーデルに郵送した。
数週間後、チャイティンは、再びゲーデルに電話した。何と、ゲーデルは、会う約束をしてくれたのだ! チャイティンは、どんなに嬉しかったことだろう! ゲーデルがいるプリンストンまで、汽車でどうやっていけばいいのか、浮き浮きとした気分で計画を考えた。
その日が来た。
その日は、雪だった。あたり一面、数センチの雪で真っ白だった。ただ、チャイティンがゲーデルを訪問することを妨げるものは、何もないのは、明らかだった!
列車に乗るために出かけようとしたその時、電話がなった。ゲーデルの秘書からだった。
「先生は、健康に特別に気を使っています。この雪で、先生は、研究所には行かないそうです。」
チャイティンのアポは、ドタキャンされたのだ。
可哀想なチャイティン! その後、チャイティンがゲーデルに会うことは、二度となかった。
"The Berry Paradox" https://arxiv.org/pdf/chao-dyn/9407003v1.pdf から。一部、丸山が脚色。
教訓1:健康に気を使うのはいいけど、体に毒なものを恐れて、最後は栄養失調でゲーデルは死んだらしい。健康志向はほどほどに。
教訓2:情報科学にとって、ゲーデルの定式化より、チャイティンの不完全性定理の方が、ずっと役に立つ。
教訓3:若者をなめるんじゃない。

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